年末のご挨拶
令和6年能登半島地震から1年が目前まで迫ってきました。
地震直後、輪島市内の壊滅的な状況を見た時に、もう輪島塗を作ることは不可能で、田谷漆器店の未来も無いと感じました。
しかし、地震直後から沢山の方々から温かいメッセージをいただき、そのメッセージの一つ一つに目を通していくうちに、前向きになり、そして未来を見据えて動けるようになったと思っております。
第一は、田谷漆器店が地震に負けずにこの未曾有の危機を切り抜けること。そしてその先に輪島塗全体や、能登半島の未来があると信じて、目の前のこと一つ一つに全力且つ即行動を心がけて進んできたと思っております。何をすれば良いのか分からず、ゴールが見えない状況の中で、自分たちの行く末を何度も不安に思いました。しかし、ゴールの方向が定まらずとも、社員や田谷漆器店のモノ作りに携わってくれる人々の一歩ずつが積み上がっていった先にゴールがあるのだと思っております。もしかするとゴールは全く想定していなかったところかもしれません。しかし、田谷漆器店が企業としてできることは、世界中の方々に輪島塗の普遍的な価値をしっかりとお届けし、輪島塗を使ってもらうことによって、能登半島の創造的復興に貢献することと考えております。「輪島塗に携わる人全体に」、「能登の人々のために」と大きなことを言うつもりはありません。しかし、自分たちがしっかりと自分たちの「商い」に真剣に向き合った先に、能登半島の経済に必ず貢献できると信じております。
「商い」という言葉を使いましたが、この1年は本当に沢山の方々に救われました。決して自分たちの「商い」に真剣に取り組むことだけで、今ここでようやく1年を迎えられると思っておりません。日本中から多くのお客様から励ましの言葉をいただき、応援していただき、輪島塗を買っていただいたと思っております。また、地震をきっかけに沢山の方々との新しい出会いをいただきました。いつも誰かが寄り添ってくれていたと思っております。そして、思いを寄せていただき、助けて下さった方々の人数は、常に我々の想像を超えていました。地震により失ったモノは非常に多く、現在も生産体制等を含めて制限があります。しかし、これほどまでに人々の優しさに気付かされることも、恥ずかしながら地震がなければなかったことだと思います。弊社に思いを寄せていただきました皆様に改まして、心より御礼申し上げます。
また、オンラインサイト、クラウドファンディング、百貨店、クラフィート、弊社の展示会で、弊社製品をお買い上げいただきました皆様には、納品までお時間をいただいておりますこと、心よりお詫び申し上げます。現在もスタッフ一同、お客様にいち早く商品が届くように努力しております。私自身も、みなさまのお気持ちにお応えしたく、気を緩めることなく、最大限の速度で生産体制と管理体制の徹底に向けて進んで参る所存です。もう少しご辛抱いただけますと幸いです。
最近、心に響く言葉を耳にしました。
「利は人の喜びの陰にあり」
我々が生活できるのも、輪島塗の生産を続けられるのも、全てお客様やお取引様、応援してくださる方々のお陰だと、当然のことではありますが再認識いたしました。少しでもみなさまにお喜びいただけますよう、そして輪島塗がみなさまの食卓を明るく豊かに彩ることができるよう、全員で努力していきます。
現時点では、手を抜かず最速で製品をお届けすることが、最重要と考えています。工場も少しずつではありますが再開してきましたし、輪島塗の同業他社や個人事業主の職人の力を借りながら、生産体制を整えております。よりスムーズに輪島塗作りができるようにしていきます。
また、「輪島塗を買いに輪島に世界中から人が来る未来を創る」ということを、地震のあとは、よく発信をしてきました。一企業にできることは限られておりますが、輪島に観光の受け皿となる施設を作っていく所存です。輪島塗を軸にしてコンテンツを拡大させます。みなさまに再び能登半島にお越しいただけるように、こちらも歩みを止めません。
地震から1年が見えてきた段階で感じていることは、感謝の気持ちです。
今年は、私も含めスタッフ全員が、通常業務に加えて、復旧、復興、取材対応、講演等、かなりの仕事量でした。1年を振り返る間もなく、目まぐるしく過ぎ去った日々でした。しかし、いつもその側には多くの人が手を差し伸べてくださっていたように思います。そのみなさまのお気持ちに、少しでも恩返しができるよう、目の前の仕事をコツコツと積み上げていきます。
きっと能登の未来は明るく、輪島塗が日本の食卓を彩り続けられると信じて、年明けの準備を進めていきます。
ありがとうございます。
寒い日が続きますので、お身体をご自愛ください。皆様の2025年が温かく豊かで実りあるものとなりますことを、心よりお祈り申し上げます。良いお年をお迎えくださいませ。
令和6年12月
田谷漆器店
代表 田谷昂大